弁護士から相手方への受任通知の送付
弁護士が債権回収の依頼を受けていることを相手方に気づかれないで準備を進める必要がある場合(仮差押えや担保権実行をする場合など)を除き、多くの場合、まずは、弁護士から相手方に「受任通知」といわれる書類を送ります。
これは弁護士が債権回収の依頼を受けていること、今後代理人として交渉の窓口は弁護士となることを伝えることとなります。
この受任通知には、一般的な場合には、「売掛金や貸金請求額を記載し、それをいつまでに支払うよう請求すること」「支払いに応じない場合や連絡をしてこない場合などには、訴訟等の法的手続きをとる予定であること」などを記載します。
すなわち、受任通知を送る段階というのは、支払い方法や額について、交渉の余地は残っているものの、請求をする側としては、それがまとまらなければすぐにでも訴訟をするつもりがあることを相手に伝える段階であるといえます。
そして、この受任通知については、配達証明付きの内容証明郵便で送付することが通常です。
必ずしも内容証明郵便で送付する必要があるわけではありませんが、請求内容や到達の有無等について証拠化するために配達証明付きの内容証明郵便で送付するのです。
弁済額や弁済時期に関する交渉
上記のように、弁護士から相手方に受任通知を送付した後は、相手の対応に応じてこちらのやるべきことも変わってきます。
まず、当然ではありますが、相手が、こちらが請求した売掛金や貸金請求額を受任通知で決めた日時までに(受任通知到達後2週間以内が通常)支払った場合には、それで債権回収は成功です。
次に、そもそも支払い義務について争ったり、支払い額について相手が争う場合には、当方が保有している相手方の支払い義務を基礎づける証拠、相手の主張を根拠づける証拠の有無や証明力の強弱を考慮して交渉による解決を模索します。
その際に、支払い時期や支払い能力についての判断も並行して考慮する要素になります。
最後に、これもよくありますが、相手としては支払い義務や支払額について争わないが、分割にしてほしいとの申し出がある場合です。
この場合には、当然のことながら、分割の期間や相手方の支払い能力、保証人などの担保の有無、分割弁済の合意について公正証書の作成に応じるか否か、強制執行を見据えて相手に執行可能な財産があるか否か等、実際の債権回収額に影響する様々な要素を考慮して分割弁済に応じるか否かを判断することとなります。
電話での交渉
債権回収の依頼を受けて、弁護士が相手先に電話で交渉を行う場合、いきなり「債権を全額いつまでに支払え」といった強引な回収を行うことはありません。
債権の金額に間違いはないか、支払う意思はあるかなど相手先の話を聞き、支払わなかった理由があった場合はその相手先の言い分が正当であるのか、正当性が無い場合はその旨を弁護士として伝えます。
弁護士が相手先(債務者)と直接話しをすることで、相手先は裁判となる可能性などを考慮し、すぐに支払いに応じることも多くあります。
また、支払う意思はあるが一括での支払いが難しい等のケースでは、分割返済など現実的な方法を相手先に提案します。
相手先が弁護士による電話での交渉に応じなかった場合は、裁判等での解決も考慮して、まず内容証明を送付する事になります。
分割返済の書面化
相手先との交渉により、分割返済で話しがまとまった場合は、まずその内容を「弁済契約書」や「覚書」などの名目で書面化します。
実は債権回収に関する案件では、未回収となる前、一番最初の請負契約や売買契約などが書面で残されていないケースが多くあります。
契約は書面がなくても成立しますが、書面化することで未回収を未然に防げた可能性が高いケースも多々見受けられます。
これは、書面に残してあれば、裁判となったときの証拠となり内容を覆すことは困難なので、相手先に契約を守らせるプレッシャーとなるからです。
そういった意味でも契約を書面に残すことは大変重要なことです。
公正証書の作成
分割返済で相手先と合意した場合、原則として契約書だけではなく公正証書も作成します。
公正証書には、債務の内容や遅延損害金の規定、期限の利益喪失の規定(支払いを怠ったときには残金を一括で支払えとの文言)等の他に、必ず「強制執行認諾文言」を入れます。
この「強制執行認諾文言」を入れることで、公正証書自体が「債務名義」となります。
通常、契約不履行(返済の遅滞など)があり、相手先の財産を差し押さえる強制執行を行おうとする場合、裁判をして判決を得なければなりません。
この判決がなければ債務名義が確定せず、強制執行も行えないからです。
しかし、訴訟を提起して判決を待つとなると当然時間も費用も掛かってしまいます。
そこで、あらかじめ「強制執行認諾文言」が入った公正証書を作成しておくことで、裁判で判決を得なくても強制執行が可能となります。
「強制執行認諾文言」が入った公正証書は裁判での判決と同様の効力があるためです。
また、公正証書は債権者と債務者が同意の下作成するので、仮に債務の内容などで裁判となった時などには、高い証拠能力を発揮します。
さらに、債務不履行の場合は裁判を経由せずに強制執行がなされるので、相手先が支払いを怠らないようにする心理的な圧力にもなるでしょう。
ただし、「強制執行認諾文言」は、金銭債権にのみ有効となっています。
ですので、例えば、家賃の滞納がある場合で、その滞納家賃の回収だけでなく、家賃の支払いを今後一度でも怠った場合はすぐに賃貸不動産の明け渡しを約束し、その不動産の明け渡しについても強制執行できるようにしたい場合、不動産明け渡しの部分については、公正証書に基づいて強制執行を行うことができません。
そのようなケースでは、簡易裁判所に和解を申し立てる「即決和解」を利用することとなります。
即決和解の利用
費用面では申立1件あたり2000円+郵便切手代となっており、公正証書の作成と比較して安くすむことが多いと言えるでしょう。
ただし、申立から和解調書が作成されるまで期間が約1ヶ月ほど掛かります。
公正証書の作成や即決和解の申立ては、必ずしも弁護士に依頼なさらなくてもご自身で行うことは可能です。
しかし、債権額が多額の場合や、法的な手続きの経験がない方にとっては、なかなかハードルが高いのではないでしょうか。
また、公正証書の作成や即決和解が成立しても、相手が支払いを怠ったときには、強制執行等の手続きが必要となってしまいます。
その強制執行手続きに速やかに移行するためにも、強制執行手続きのタイミングを事前に弁護士に相談することもできますし、相手にも強制執行手続きが現実に行われる可能性が高いとのシグナルを与えることもできます。
公正証書や即決和解による合意をお考えの方は、ぜひ一度弁護士へご相談なさることをお勧めいたします。