債権譲渡による債権回収とは、支払いが滞ってる相手側(債務者)が持っている債権(第三者への売掛金や貸金など)を、強制執行などではなく任意でその債権を譲渡してもらう事で、回収を図る手段です。
これとは別に、銀行やクレジットカード会社、消費者金融などが、滞納で回収が見込めない(キャッシングや住宅ローンの場合、主に6ヶ月以上の滞納など)債権を債権回収会社(サービサー)に譲渡することで、自社の不良債権を処理し、譲渡を受けた債権回収会社(サービサー)が滞納している債務者から回収を図ることも、債権譲渡による債権回収といえます。
一般的に後者の方がよく使われていますが、法人対法人や個人対法人また個人対個人でも債権譲渡による債権回収は可能です。
例えばA社がB社に100万円の売掛金が有り、B社はC社に100万円の売掛金があるとします。
B社がA社に対して売掛金の入金を怠っている場合、B社がC社に持っている売掛金を、C社からA社に支払ってもらう事で債権回収ができます。
本来、C社→B社→A社というお金の流れを、B社が持っている債権をA社に譲渡することで、C社→A社が可能となるため債権譲渡による債権回収となるわけです。
ただし、これを可能とするにはいくつかのハードルが有り、また弁護士および債権回収会社(サービサー)以外が、報酬を得る目的で債権回収の手続きを行うことは、いわゆる非弁行為となり違法です。
また、債権回収会社(サービサー)が債権回収を行えるのは、金融機関など法人の特定金銭債権に限られているため、個人の債権や法律で定められた特定金銭債権以外の債権回収はできません。
したがって、全ての債権について債権回収を行うことができるのは、弁護士のみとなっています。
債権譲渡による債権回収が可能なケースとは
まず、相手側に債権譲渡が可能な、第三者に対する債権(売掛金や貸金など)が存在するのかを調べる必要があります。
そのため、支払いの遅れが生じた段階で、単に支払いの遅れを了承するのではなく、いつ支払えるかといったことを約束するときに、その根拠を具体的に聞き出しておくことが必要です。
例えば、「来月には継続取引している○○社から、売掛金が○○円入金されるため、それで支払える」といったことなどです。
もちろん、言葉通りに支払ってもらえれば、遅れはあっても回収は完了です。
ですが、翌月になっても支払いがなされず、さらに先延ばしにされてしまうなどといったことがよくあるかと思います。
そうした場合に、あらかじめ継続取引先や売掛金の額などの情報を把握しておくことで、債権譲渡による債権回収を相手に交渉することが可能になります。
このように、債権譲渡による債権回収を可能にするためには、常日頃から相手先とコミュニケーションを取り、情報の収集とその情報の信頼性を把握しておくことが重要だといえるでしょう。
債権譲渡を行うには、このように相手先が第三者に対する債権を持っていることを把握しておく必要がありますが、それ以外にあらかじめ、債権譲渡担保契約を結んであった場合も債権譲渡による債権回収が可能です。
現実的には、支払いが遅れてから債権譲渡可能な債券を探してその債権を譲渡してもらうのは難しいため、債権譲渡担保契約を結んでおき債権譲渡による債権回収を図るケースのほうが一般的です。
債権譲渡担保契約とは、「相手先の第三者に対する売掛金などを、債務不履行があった場合は債権譲渡する」ということを担保としてあらかじめ契約しておくことです。
通常、担保と言えば不動産などが 典型的に思われるでしょうが、不動産の場合、すでに抵当権が設定されているケースが多く、実質的に担保として意味をなさないことが多いのではないでしょうか。
そのようなときに、より有効な担保として、相手先の第三者に対する売掛金などを債権譲渡担保として契約することにより、未回収となるリスクを低減できます。
債権譲渡担保契約を、第三債務者(相手先が持っている債権の債務者)に対し自分が債権者であると主張するためには、債権譲渡登記をしておく方法が確実です。
債権譲渡登記とは、法人がする金銭債権の譲渡や金銭債権を目的とする質権の設定について、簡便に債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えるための制度です。
または、相手先に対して確定日付のある通知をするか、確定日付のある承諾書により、対抗要件を取得しておく必要があります。
債権譲渡の手続き
債権譲渡の手続きで最も重要なのは、対抗要件を満たすことです。
債権譲渡の対抗要件は2種類あります。
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- 債務者対抗要件
- 第三債務者(相手先が持っている債権の債務者)に対し自分が債権者であると主張できる要件
通知もしくは承諾でよい
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- 第三者対抗要件
- 債権の二重譲受人や差押債権者、破産管財人等の第三者に対し自分が債権者であると主張できる要件
確定日付がある証書による通知又は承諾が必要
債権譲渡の手続きでは、通常、第三者対抗要件を満たすように確定日付ある証書による通知又は承諾により対抗要件を取得します。
債権譲渡による債権回収を図るケースでは、自分以外にも複数の債権者がいることが多いため、第三者対抗要件を満たしておかなければ失敗する場合があるからです。
債権者が複数の場合、確定日付が早いほうが優先されます。
第三者対抗要件を取得するには、確定日付がある証書による通知として内容証明郵便にて行うのが一般的です。
この場合、送り主は譲渡人(債務者)であることが原則ですので、譲受人(債権者)が直接、第三債務者(相手先が持っている債権の債務者)に送ることはできません。
したがって、譲渡人(債務者)に送ってもらうことが必要なのですが、必ずしも譲渡人(債務者)が協力的だとは限らないのではないでしょうか。
その場合は弁護士へご依頼いただければ、弁護士が代理人として内容証明郵便による通知をすることができます。
また急を要しない場合であれば、譲受人(債権者)と譲渡人(債務者)で債権譲渡契約書を作成しておきましょう。
債権譲渡契約書には、譲渡対象債権を明記し、債権譲渡の対抗要件を備えるため譲渡人(債務者)は譲受人(債権者)に協力すること、譲渡する債権が譲渡禁止特約の付いた債権でないことなど、注意すべき点があります。
債権譲渡契約書の作成に当たっては弁護士へご相談なさることをお勧めいたします。
債権譲渡の注意点
債権は原則として譲渡が可能ですが、譲渡できない債権もあります。
その中で、主なものを紹介いたします。
法的に譲渡不可の債権
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- 譲渡禁止債権
- 扶養請求権(民法第881条)、災害補償を受ける権利(労働基準法第83条)などの法律によって譲渡が禁止されている債権は債権譲渡ができません。
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- 譲渡禁止特約のある債権
- 相手先(債務者)と第三債務者(相手先が持っている債権の債務者)の間で、譲渡禁止特約のある債権は債権譲渡できない可能性があります。
債権は原則として譲渡自由のため、善意の譲受人に対して譲渡禁止特約は無効となりますが、悪意又は重過失の譲受人に対しては有効となるため、悪意又は重過失があると立証された場合、債権譲渡ができなくなります。
また、債権譲渡契約を結ぶことは可能でも、実際に回収が難しい債権であることがあるので、譲渡を受ける第三債務者の債権はよく調査しておく必要があります。
譲渡を受けても回収が難しい債権
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- 信用がない第三債務者の債権
- 第三債務者(相手先が持っている債権の債務者)に弁済能力(返済能力)が無いなど、債権譲渡を受けても回収できない可能性が高いケースがあります。
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- 相殺を主張される可能性がある第三債務者の債権
- 第三債務者も譲渡人に対して債権を持っていた場合、相殺を主張される可能性があります。
債権譲渡による債権回収は、条件が整わなければ難しい面がありますが、可能な場合は裁判所による手続き(裁判や強制執行など)をすることなく回収ができるため、メリットは大きいといえるでしょう。
債権譲渡による債権回収のご依頼だけではなく、債権譲渡がそもそも可能か判らない場合のご相談なども、一度弁護士へお問い合わせなさることをお勧めいたします。